聞いた、見た、読んだ。

お気楽金融雇われ人の見聞録

メガバンクの決算

三菱UFJ決算推移
不良債権消え、巨額「戻し益」三菱UFJ
大手銀行の一部は22日、06年3月期の連結決算を発表し、軒並み巨額の利益を計上した。なかでも三菱UFJフィナンシャル・グループの当期利益を約1兆2000億円まで押し上げたのは、過去に積んだ不良債権処理費用の「戻し益」だ。旧UFJホールディングスの「負の遺産」が利益になって戻ってきた形だ。旧UFJ救済の色彩が強かったトップバンク誕生劇は、財務面では大きな統合効果を生んだが、顧客に見える形でどう還元するかが課題として残る。(asahi.com 2006年5月23日)

しかし、決算のブレが大きすぎますね(画像は引用元記事asahi.com]から)。今後の銀行の決算を見るときは、この巨額の「戻し益」が曲者になりますね。

この戻し益は、景気後退期の債務者の信用状態の悪化に伴って計上した貸倒引当金が源泉です。今のような景気回復局面では、このような戻し益によって実態以上の好決算が出てきますが、逆に言えば景気後退局面では、債務者の信用状況悪化に伴って貸倒引当金を計上するための費用が発生するため、決算内容はより悪い内容になります。要するに、実態の経済の上昇・下降以上に銀行の決算のブレが大きくなるということなんですね。

銀行の決算については、貸倒引当金の他にもうひとつブレを大きくする要因があります。来年導入が予定されている新しい自己資本比率規制(いわゆるBIS規制)です。これは、現在のBIS規制では例えばトヨタのような優良企業でも、町の零細企業でも、貸出金額に対して一律8%の自己資本を準備しておくことが求められているのに対し、新しいルールでは債務者の信用状況に合わせた自己資本を準備しておくことが求められる、というものです。

そうなると景気上昇局面であれば準備しておくべき自己資本が減少する一方、景気後退局面では準備すべき自己資本が増大することから、貸倒引当金と同じように銀行の決算のブレを大きくすることになります。

まぁ、銀行の決算がブレるだけであれば、投資家が景気動向を見ながら銀行株の売買をすればよいだけなのですが、銀行の決算があまり大きくブレると実体経済に対しても副作用がありえるのが気になります。つまり、景気後退(とその結果としての債務者の信用状況悪化)によって、銀行は貸倒引当金自己資本を厚く積むことを要求されますから、それを避けようと銀行からの資金供給(貸し出し)が急速に減少することがありえます(問題になった貸し渋り貸し剥がしですね)。

次回の景気後退局面で貸し渋り貸し剥がしが発生するかどうかはわかりませんが、景気後退期は上に書いたような銀行行動によって景気をさらに悪化させる制度的な副作用も孕んでいるということになります。貸倒引当金自己資本を厳格に積んでおくということは、銀行の経営の安定性や金融システム全体の安定性には役に立つのですが、このような制度的な副作用もビルトインされているんですね。今となっては副作用を全くなくすことは不可能ですが。