聞いた、見た、読んだ。

お気楽金融雇われ人の見聞録

法知識を法曹が独占する社会?

ボツネタ」経由で「UP」4月号に掲載された内田貴先生の論文「法科大学院は何をもたらすのか または 法知識の分布モデルについて」を読みました。

法科大学院が導入されるまで,日本には全国に100に近い数の法学部があり,約4万5千人の卒業生が毎年生み出されていた.卒業生は,中央,地方の官公庁のほか,幅広い領域の民間企業に就職してきた.法曹になったのは毎年1~2パーセントに過ぎない.無論,4万5千人の法学部卒業生の多くが,十分な法的素養を身につけていたかどうかはわからない.しかし,契約書その他の法的文書を見せられたとき,多少なりとも意味を解することのできる人材が,毎年4万人以上生産され,その中の優秀な人材が中央や地方の官公庁に大量に入っていった.民間企業でも,現在の法務部員の多くは,法曹資格のない法学部卒業生によって占められている.日々,生きた法務に接している彼らから,若い弁護士は使い物にならないという話も聞く.…
…司法制度改革は,日本社会を法知識についての集中型社会へと転換する選択をした.現在はまだ社会に多数拡散している法知識は,今後,法科大学院が定着するなら,次第にその質を低下させていくだろう.そして,法知識を法曹が独占する社会へと向かう.その影響は,やがて,じわじわと社会の様々な面に現れるに違いない.真っ先に直面しなければならないのが,中央・地方の公務員における法的リテラシーの低下だろう.とりわけ中央の官僚たちの法的資質が低下したとき,どのような影響が生ずるか.近い将来,その影響ははっきり観察できるに違いない.

大変興味深い指摘ですが、雇われ人兼法科大学院生から見ると、本当に「法知識を法曹が独占する社会」に向かうのかな?という点に疑問を感じました。

確かに司法制度改革によって、現状の法曹約25,000人を最終的には約50,000人まで増加させる方向が示されていますが、現状の「法曹業界」、すなわち裁判所、検察庁弁護士法人・事務所が「雇用」として吸収しきれるかというと、答えはNoだと思います。したがって法科大学院を出てめでたく司法試験に合格した人間でも、裁判官、検察官、渉外弁護士や独立の弁護士としてやっていけない(従事できない)人間は相当数出てくるように思います。

また、法学部からは毎年約45,000人の新卒が生み出されているとのことですが、法科大学院の現在の定員は6,000人前後であり、全員が法科大学院に進学するわけではありません。まして法科大学院を出ても司法試験に合格できない人間が過半数(もしかすると大多数)を占めることはほぼ見えつつあります。これまで法学部をでて法曹になった人間が1-2%程度であったとすれば、法曹人口が倍になったとしてもせいぜい2-4%が法曹に進む(進める)だけだとも言えるように思います。
#なんちゃって法科大学院生としては、卒業したら自動で法曹資格を戴きたいのが本音ではありますが(笑)。

法学部を出ても法科大学院に進学しない学生が多数を占めるであろうこと、法科大学院を出ても司法試験に合格できない人間が数多く出るであろうこと、司法試験に合格しても法曹三者に限ってみた場合の雇用吸収力はおそらく限界があること、を考えると、法知識を法曹が独占する、すなわち法律に土地勘のある人材が法曹界に独占されるという状況に向かうことは考えづらく、結局は官公庁や民間企業が法律に土地勘のある人材を吸収する構図が大きく変わらないのではないでしょうか?

もちろん、以上の考えは「法学部の講義レベルが低下しない」という前提に立ったものですので、法学部の講義が従来より薄いものになるということですとまるで成り立たない議論ではありますが、多くの法科大学院が既修・未修を分けて学生を集めていることから考えれば、それは要らぬ心配でしょう。