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お気楽金融雇われ人の見聞録

JPモルガン信託に業務停止命令

金融庁もようやく重い腰を上げたなぁというところ。

金融庁、JPモルガン信託に半年の業務停止命令
金融庁は5日、JPモルガン信託銀行に対し、証券化を引き受けた不動産の審査体制がずさんだったとして、不動産の信託にかかわる業務を4月13日から半年間停止するよう命じた。JPモルガン証券、JPモルガン・チェース銀行などグループ各社でも不正行為が相次ぎ発覚。同庁はグループ各社の法令順守をチェックする機能がまひしていたことなども重くみて、異例の重い処分を下した。(NIKKEI NET 2006年4月6日)

いわゆる外資系金融機関の管理体制が弱いということは何年も前から半ば公然の秘密とされていたことで、そしてこれら外資系金融機関に対する金融庁の検査は腰が引け気味だということもやはり公然の秘密でありました。そういう意味では、今回の金融庁による行政処分には今ごろ感が否めませんが、まぁこれまでは金融庁も邦銀の不良債権処理を最優先としていたため外資系金融機関の検査まで手が回らなかったという事情はあるのですが。

既に日本から撤退したシティバンクプライベートバンキング業務、それからステートストリートの資産管理業務、そして今回のJPモルガン・チェース証券化業務と、それぞれの銀行が日本で規模を拡大させていた得意業務をターゲットに金融庁行政処分に踏み切ったということは、金融庁がようやく本腰を入れてきたということを象徴していると言って良いと思います。

金融庁行政処分を下すときは、日本の金融機関であっても、まるで何も管理していなかったかのように(実際まるで管理できていなかったケースも多いのですが)厳しい文体で指摘事項をずらずら並べるのがいつものことではありますが、今回JPモルガン信託に対する指摘(JPモルガン信託銀行株式会社に対する行政処分について)もなかなか凄い内容です。

具体的には不動産の証券化業務に関して、引受不動産の審査・査定を行っていなかったこと、その結果として対象物件の瑕疵やリスクを信託受益者に転嫁していたことが指摘されています。受託した信託財産の中身もすごかったようで、適法状態に戻せないような違法建築の信託財産への組み入れや収益還元法を悪用した物件評価額の水増し、信託を隠れ蓑にした物件の短期売買による租税回避など、まさに何でもありの無法状態だったことが指摘されています。この他に信託受託の口座開設に関する本人確認義務違反や業務に関する届出義務違反などがあったと指摘されていますが、こちらは違反の程度としては小粒なものであり、本命は上で挙げた違反でしょう。

さらに、コンプライアンス体制や経営管理(ガバナンス)体制、業務システムインフラ、監査役の監査がきちんと機能しておらず、結果として営業サイドによる法令違反の状態が、ほとんどチェックされることなく放置されていたことが責められています。字面だけ読むとほとんど管理不在の無政府状態であったと言わんばかりの内容です。JPモルガン信託の内部管理の実態がどうなっているのか部外者からは分かりませんが、金融庁の気合いの入り方から察するに、今回の処分を受けて真面目に体制整備に取り組まないとシティバンクプライベートバンキング業務と同じように撤退に追い込まれてしまうかもしれませんね。