聞いた、見た、読んだ。

お気楽金融雇われ人の見聞録

何を期待していたんだろう?

日経新聞の特集「フィナンシャル越境バトル」に、旧大蔵省で銀行局長を務めた西村吉正早稲田大学教授と金融審議会などの常連でもある日本総研の翁百合主任研究員のインタビュー記事が出ています。この10年くらい進められてきた金融業界の規制緩和の結果を総括するという位置づけのインタビューのようですが、失礼ながら、お二人とも規制緩和に何を期待していたのか良く分からない総括をなさっているように思います。

規制緩和で制度上の業態の垣根はほとんど無くなり、私が旧大蔵省で金融行政を担当した1990年代初めに描いた姿になってきた。しかし、実態が変わらず、当てが外れた印象だ。金融マーケット発展のため銀行の人材を動きやすくすることが規制緩和の目的だったが、期待したほどの成果は上がっていない。マーケットで活躍する人材の育て方は銀行とは違うのかもしれない。(西村氏)

西村さんが銀行局長を辞めた1997年7月以降、既存の金融業界、特に銀行業界は不良債権の処理に追われて業界自体が縮小を続けたわけですが、そんな状況下で人材の流動性が高まることなんてあり得るんですかね?しかも銀行業界だけが業績が悪かったというならまだしも、日本経済全体の元気が無い時期で失業率が上がる一方だったのですが…。そういう状況をばっさり捨象して流動性が高まらなかったのは期待はずれと言われても苦笑するしかありません。

しかも、縮小する業界とは言っても、不良債権ビジネス、企業再生ビジネス、M&Aなどの投資銀行ビジネス、消費者ローンビジネスなどを中心に外資系の金融機関が進出してきて、今ではそれぞれのマーケットで相当のシェアを占めるようになっていますし、その他にもセブン&アイ銀行やネット専業銀行など新しい銀行が設立されたのに合わせて相応に人間が動いているわけで、それなりに人材の流動性は高まっているはずなんですがね。彼はどんな状況を期待していたんでしょう?

(ひとつのグループで)多様なサービスが提供される。証券、保険も扱うことで、横並びで画一的な銀行サービスが代わる可能性がある。一方で、メガバンクは三つしかなく、寡占が心配だ。地域によっては競争が起きず、新サービスが入らないおそれもある。(翁氏)

大手都銀同士で合併を進めメガ化したのはそれぞれの銀行の経営判断ではありますが、日本に国際的に活動する銀行は一つか二つで良いといって寡占化を容認したのは行政で、その政策決定プロセスには翁さん自身も深く関わっていたはずなのですが、今さら寡占を心配なさるのはどういうつもりなんでしょう?それにメガバンクと言っても、別に全国津々浦々に営業拠点を持っているわけではありません。地域寡占による競争阻害を心配するのであれば、むしろ郵便貯金銀行に注意すべきでしょう。

それに寡占が進んだのは金融業界だけではなく、鉄鋼業界や製薬業界、半導体業界、流通業界などもこの10年間で業界再編が進み寡占の度合いは相当進んだように感じるのですが、それらの業界と比べて金融業界だけに寡占の弊害が出ているんですかね?だとしたら、そのあたりを指摘していただきたいところです。