聞いた、見た、読んだ。

お気楽金融雇われ人の見聞録

日本振興銀行の決算を検証してみた(その1)

5月31日に日本振興銀行が平成16年度の決算を発表しました。貸出実行件数800件以上、貸出残高100億円以上、不良債権残高比率5.7%以下という目標を掲げ、3月末時点ですべての目標を達成しました。この決算をもって日本振興銀行のビジネスモデルが確立したとして、今年はじめに「緊急避難的に」社長に就任した木村剛氏は、社長を辞し会長に就任するそうでご同慶の至りです。

でも、日本振興銀行のビジネスモデルは継続可能な形で本当に確立したといえるのでしょうか?
すでに発表された決算(これとかこれとかこれ(いずれもPDF))の数字を手がかりに検証してみました。

(1)貸出金の利ざやについて

日本振興銀行は、中小新興企業の資金繰りを支援することを最大の目標に、原則無担保の貸出を8~15%程度の金利で提供することを売りにしています。一方、貸出の原資となる資金の調達はほぼすべてを定期預金でまかなっています。定期預金の金利は5年物で0.8%ですので、かなり厚い利ざやを確保することができるはずです。

実際、日本振興銀行の貸出金の利ざやがどのくらいなのか、簡単な試算をしてみました。
日本振興銀行の貸出残高と経常収益を上期と下期に分けると次のとおりになります。

(百万円) 上期 下期
貸出残高 4,000 11,886
経常収益 85 310

年度末の貸出残高は上期末のほぼ3倍、経常収益もほぼ3.65倍と大きく伸びています。日本振興銀行のプレスリリースにも書いてあるとおりです。
では、これらの貸出の利ざやはどうなっているのでしょう?

まず上期の利ざやを試算してみます。ここでは単純化のため、経常収益がすべて貸出金からの利息収入と考えます。
日本振興銀行は16年4月21日開業なので実質5月開業と考えると、5ヶ月間で貸出40億円を実行し、収益85百万円を稼いでいます。開業と同時に40億円もの貸出残高があるはずがありませんので、上期の5ヶ月間で均等に残高が増加していったと考えると、この間の平均残高は20億円となります。20億円が5ヶ月間で85百万円を稼いだので、上期の平均の利ざやは、(85÷5×12)÷2,000=0.102で10.2%となります。なかなかいい具合に利ざやを確保できています。

問題は下期の利ざやです。
またまた単純化のため、上期に実行済みの貸出と下期に新たに実行した貸出を分けて考えてみます。
上期に実行済みの貸出は、本当は毎月の返済により残高は減るはずですが、下期の間まったく返済が無かった(残高の変動が無かった)ものと考えます。そうすると、残高40億円に対して利ざやが10.2%ですから、下期の6ヶ月で204百万円の収益を稼いだことになります(4,000×10.2%÷2=204)。

一方下期に新たに実行された貸出ですが、年度末の貸出残高が11,886百万円なので、11,886-4,000=7,886百万円となります。下期の収益が全体で310百万円なので、下期に新たに実行した貸出が稼いだ収益は310-204=106で、106百万円となります。

下期に実行した貸出についても、上期の貸出実行と同様に、下期の6ヶ月間で均等に残高が増加したと考えると平均残高は3,943百万円です。したがって、この貸出の平均利ざやは、(106÷6×12)÷3,943=0.0537…で約5.4%ということになります。

こうしてみると、下期に大きく伸びた貸出金は、上期の貸出に比べ、かなりの低レートで提供されているようです。
中小企業向けの無担保貸出は、メガバンクや地銀などが参入し競争が激しくなっていますので、利ざやが圧迫されるのはやむを得ないことかもしれませんが、このまま利ざやが薄いままで大丈夫なのかな?

(長くなったので「その2」に続きます)


[関連投稿]
日本振興銀行の決算を検証してみた(その2)(2005年06月09日)
木村剛氏、日本振興銀行社長に就任(2005年01月04日)
日本振興銀行の苦境(2005年12月5日)