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日本振興銀行の決算を検証してみた(その2)

昨日のエントリーでは、日本振興銀行の貸出金の利ざやについて、下期に大きく伸びた貸出金が上期に実行された貸出金に比べて低レートで提供されている可能性があることを検証しました。誤解の無いように付け加えておきますと、下期に実行された貸出の推定利ざやの5.4%が薄いというわけではありません。貸出先の違いが大きすぎるので単純は比較できませんが、国内メガバンクの貸出金の利回りが軒並み1%台であることと比べれば厚い利ざを確保しているといえると思います。

ただ、問題は日本振興銀行の貸出金の利ざやが、同行の人件費や貸出金から発生する貸し倒れ費用を賄うのに十分であるかどうかです。
今日は日本振興銀行の貸出金の「質」について検証してみたいと思います。

(2)貸出金の質について

日本振興銀行のプレスリリースでは、リスク管理債権の合計が396百万円となっており、17年3月末の貸出金11,886百万円に対する比率が3.33%となっています。これはメガバンクみずほ銀行の2.3%、東京三菱銀行の2.5%、三井住友銀行の3.5%、UFJ銀行の4.6%と比べても遜色ない水準です。16年9月末が5.7%であったことから考えれば、リスク管理債権の比率はかなり改善したといっていいと思います。

では、「不良債権ではない」貸出金の質はどうなっているのでしょうか?

大雑把に言うとリスク管理債権には、倒産した会社やほとんど倒産している会社への貸し出し、倒産してはいないが返済が滞っている会社への貸し出し、返済は続けているが金利の減免など貸出条件を緩和するなどした会社への貸出が含まれています。逆に言うと、決算は赤字だが返済は何とか滞らずに続けている会社、すなわち貸し渋り貸し剥がしの影響を一番受けやすい会社への貸出は含まれていません。したがって、銀行の貸出の質を検証するためには、リスク管理債権には含まれないものの、業況のあまりよくない会社への貸出がどのくらいあるのか推計する必要があります。

ここでは、リスク管理債権ではない貸出金11,490百万円(=11,886-396)と一般貸倒引当金581百万円を使って試算します。

単純に一般貸倒引当金リスク管理債権ではない貸出金の比率を計算すると約5%です。これは、たとえばみずほ銀行の貸出金約34兆円に対する一般貸倒引当金約2,300億円の比率約0.67%と比べると相当高い水準であり、これだけでも日本振興銀行の貸出金の質がメガバンクなどと比べると相対的に悪いことがわかります。

もう少し掘り下げてみます。一般貸倒引当金は、リスク管理債権ではない貸出金とリスク管理債権のうち「3ヶ月以上延滞債権」と「貸出条件緩和債権」(まとめて要管理債権)の貸倒れに備えて計上する引当金です。また、リスク管理債権ではない貸出金には、決算が良好で業況に問題ない会社(正常先)向けの貸出と赤字決算を計上するなど業況のあまりよくない会社(要注意先)向けの貸出が含まれます。

正常先向け貸出と要注意先向け貸出、要管理債権では、貸倒れが発生するリスクがそれぞれ異なるので、貸出金に対する貸倒引当金の比率(引当率)も違っているのが一般的です。みずほ銀行の例を挙げると、正常先債権に対して0.15%、要注意先債権に対して6.24%、要管理債権に対して16.49%の引当金が計上されています。

日本振興銀行みずほ銀行の引当率が同じということはないはずですが、この引当率を使って正常先と要注意先の貸出がどのくらいあるのか試算してみます。

まず、要管理債権78百万円に対する引当金額は、78×16.5%=12.87で約13百万円となります。これを一般貸倒引当金581百万円から控除すると残りは568百万円になります。
ここで正常先向け貸出をx百万円、正常先向け貸出の引当率を0.15%、要注意先向け貸出をy百万円、要注意先向け貸出の引当率を6.5%と仮定すると、次の連立方程式を解くことで正常先向け貸出と要注意先向け貸出の額が推計できることになります。

x + y = 11,490
0.0015x + 0.065y = 568

これを解くと、正常先向け貸出が約2,820億円、要注意先向け貸出が約8,670億円となり、リスク管理債権でない貸出の実に4分の3が赤字企業向けの貸出であるということになります。もちろん、これは仮定に基づく試算なので正しい姿ではありません(たとえば要注意先向け貸出の引当率を上げれば要注意先向け貸出の額は小さくなります)。中小企業をメインターゲットにしている以上やむを得ないことではありますが、日本振興銀行の貸出の中身はちょっとしたショックで急激に悪化してしまうリスクを秘めているといえるでしょう。


(3)まとめ

以上、日本振興銀行の貸出の利ざやと質について検証してみました。

昨日のエントリー冒頭で掲げた疑問「日本振興銀行のビジネスモデルは継続可能な形で確立したといえるかどうか」について、私は現時点では「No」と結論付けざるを得ないように思います。

中小企業向けの無担保貸出競争が激しくなっているため利ざやの改善はあまり期待できず、利ざやが薄くなるばかりでしょう。その一方で、すでにある貸出の質は悪化するリスクを抱えている、という状況を踏まえると、現在の日本振興銀行の利ざやでは人件費や貸し倒れ費用を賄うのに十分ではなく、継続可能なビジネスモデルが確立したとはとても言えません。

処方箋としては、貸出残高をどんどん伸ばして利ざやの薄さを補って余りある収益「額」を追求するか、中小企業向け無担保貸出以外にも何か収益の柱を作るということになるのでしょうか?

いずれにせよ木村氏は、まだまだ木村剛商店の代表取締役会長兼大株主としてしっかりと責任を全うして頂く必要がありそうです。


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