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お気楽金融雇われ人の見聞録

専門職大学院の奨学金制度は定着するか?

積水化学、グループ社員向け専門職大学院の奨学金制度
積水化学工業はグループ社員向けに、専門職大学院奨学金制度を新設した。復職を前提に入学金や授業料など学費を全額負担する。専門職大学院は修学期間が 2―3年で、これまでは退職するしかなかった。管理部門で専門性の高い社員を育てる狙いで、製造業での導入は珍しいという。(NIKKEI NET 2005年6月6日)
法曹養成制度の改革を担う法科大学院は、今年度の適性試験の志願者数が20,000人を割り込みました。初めて実施した2003年度の志願者と比べるとほぼ半減してしまっているように、制度自体の運用が軌道に乗っているとは言いがたい状況です。

一方で、村上ファンドライブドアの例を挙げるまでも無く、財務や法務を梃子に企業の買収や売却を行うことは日本の中でも珍しいことではなくなってきました。現在の企業は、営業力という「攻め」を強化して好決算を目指すだけではなく、法務面や財務面といったいわば「守り」の強化も求められているのが実情だと思います。

そうした中で、積水化学グループは、法務、会計といった管理部門における専門性の高い社員を充実させることを狙って、法科大学院会計大学院といった専門職大学院への奨学金制度を導入することにしたようです。

いち早く取り組みを始めた積水化学グループのスタンスは評価するべきだと思います。問題は、こういった制度が専門性の高い社員の充実につながるかということですが、1990年代の企業によるMBA派遣の流行がどのような結果に終わったかを見ていると、今回の試みがうまく行くのは実際にはなかなか難しいと思います。

企業側からみれば、留学費用を用立ててMBAを取らせてやったのにあっさり辞める社員はとんでもない薄情ものだということになるのでしょうが、せっかく身に付けた専門性を発揮する場も与えてくれないような企業にいつまでも飼い殺しにされたくないというのが正直なところです。

こうした企業と従業員の相互不信を払拭することが成功の鍵だと思いますが、ここをクリアするのは相当にハードルが高いように思います。というのは、企業の側に法務や財務といった内部管理業務における専門性をきちんと評価できるノウハウが無いように見えるからです。社員サイドが飼い殺しのリスクを恐れるのは、突き詰めればこの部分の評価ノウハウが企業サイドに無いことを表しているに過ぎないのです。

今回の制度も、就学期間中は休職扱いで給与・賞与は支払わないという事実上家族を持つ社員を門前払いするように、企業サイドの不信感が透けて見えるようなようですので、運用の方法を間違えると10年前の二の舞になりかねないリスクをはらんでいるように思います。