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お気楽金融雇われ人の見聞録

日立、発明報奨制度を刷新へ

青色発光ダイオードの発明対価を巡る中村修二教授と日亜化学工業の争いは、日亜化学が遅延損害金を含め8億4000万円を中村教授に支払うことで和解した。一夜明けた12日には早速日立製作所が、自社の発明報奨制度を刷新することを明らかにした。
日立、発明報奨制を刷新・対価の根拠開示(NIKKEI NET 2005年1月12日)

制度の骨子は、発明者に対し報奨額の計算方法や他社へのライセンス供与状況などを開示する、報奨額に納得できない場合の不服申立機関として裁定委員会を設置する、報奨上位者を社内公表することとされている。

今年4月に改正される特許法35条への対応として制度を見直したものだそうだが、日本的なある程度長期間の雇用関係を前提に職務発明に対する報奨制度を考えればこんな感じに落ち着くのかなという印象。日立は毎年7億円程度の発明報酬を支払っているそうだが、これが制度見直しでどの程度膨らむのか興味深いところ。

日立による制度見直しの背景には、青色発光ダイオードの発明対価を巡る争いがあることは言うまでもない。6億円という発明対価が妥当かどうか判断できる材料を持っていないが、長期雇用(いわゆる終身雇用)を前提としたサラリーマン研究者であれば、自身の発明対価に対しておのずとある程度の上限は設定されるのは止むを得まい。なぜなら、研究・開発に失敗した時のリスクはすべて会社が負っているわけだし、製品化のノウハウや販路の開拓、広告・宣伝費なども基本的にはすべて会社が負うからだ。また、自身の研究のために自社が保有する様々な知的財産をほぼ無料で活用できるというのもサラリーマン研究者ならではのメリットだと思う。

一方、発明対価に上限が設定されること自体が不満な研究者は、かのエジソンのように自分で会社を立ち上げる道はあるのだから、自身の発明やその後の製品化に本当に自信があればその道を行けば良いし、会社とプロジェクト単位で雇用契約を結ぶというやり方もあるかもしれない。中村教授が勧めるようなアメリカの研究機関を目指すという道もあるだろうが、かの地の研究機関でも実績の無い者が研究予算を獲得するのは容易なことではないと聞く。いずれにせよ大きなリターンを得るためには相応のリスクを背負うことは避けられないだろう。そこまでのリスクを負うつもりのない人間にとってはサラリーマン研究者だって十分に合理的な選択肢であるわけで、一概に否定すべきものではないと思う。

日立の発明報奨制度に戻ると、重要なことは会社と研究者の間で発明対価の評価に関する明確なルールが定められ適切に運用されることである。日立の新制度はこれを先取りしようとするものだが、穴がある とすれば、裁定委員会に外部者を入れない点だろうか?日立くらいの大企業であれば、過去の膨大な知的財産の中から妥当な報奨額を算定するための「判例」を提供することは難しくないのだろうが、そうした過去の経験からはみ出すような発明があった場合は裁定委員会でも判断できないはず。そういう場合は、今回の青色ダイオードのように司法の判断を仰がざるをえないだろう。