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お気楽金融雇われ人の見聞録

2005年度予算案財務省原案の内示

2005年度予算の財務省原案が発表された。
一般会計歳入歳出概算
  2005年度
算額
2004年度
当初予算額
伸び率
【歳入】
租税・印紙収入 44.0 41.8 5.4
その他収入 3.8 3.8 0.3
公債金 34.4 36.6 ▲6.0
合計 82.2 82.1 0.1
【歳出】
社会保障関係費 20.4 19.8 2.9
国債 18.4 17.6 5.0
地方交付税交付金 16.1 16.5 ▲2.5
公共事業関係費 7.5 7.8 ▲3.6
文教および科学振興費 5.7 6.1 ▲7.2
防衛関係費 4.9 4.9 ▲1.0
その他 9.2 9.4 ▲2.2
合計 82.2 82.1 0.1
(単位:兆円、%、▲は減少)
ポイントは、
  • 予算の規模は約82兆円でほぼ横ばい
  • 歳入面では、税収が約2兆円増加した分、公債金(国債の発行額)は約2兆円減少
  • 歳出面では、増加した項目は社会保障関係費と国債費のみ。あとの項目は減少
  • 年金、介護、医療などの社会保障関連費は約20兆円で、前年比約6,000億円の増加
  • 国債の利払いや償還金に充てられる国債費は約18兆円で、前年比約1兆円の増加
  • 道路、鉄道、空港などの公共事業関係費が約3,000億円減少
といったところ。

ひとことで言えば「膨れ上がる社会保障関連費の増加分を公共事業関係費の削減でまかなう一方、景気の先行きを気にして公共事業の中でも波及効果が期待できそうな整備新幹線や空港関連の費用は確保した」予算で、個人的には財政再建を求める強い圧力の中、景気浮揚効果にも配慮した苦労の跡が見える予算だと思う。

ところが新聞各紙の論調は「歳出削減努力が足りない」の大合唱。特に整備新幹線に予算をつけたことが許せないらしい。
これで精いっぱいなのか歳出削減(日経社説)
景気は調整局面にさしかかったが、来年後半から再び上昇気流に乗るという見方も多い。政府も来年度は実質1.6%成長を見込んでおり、もっと当初予算を抑えても問題はなかったのではないか。
禍根を残すのは整備新幹線3区間の着工や関西国際空港の2本目の滑走路に予算を付けたこと。本来なら国債減額に充てるべき既存新幹線の売却収入を“前借り”してまで建設に充てる。完成すれば「延長を」の声が必ず出る。また「新幹線や関西空港に予算が付くぐらいなら……」とほかの分野で新規予算要求が高まり歳出抑制のタガが緩む恐れもある。


[財務省原案]「税収増で鈍ったメスの切れ味」 (読売社説)
国と地方を合わせた借金は、来年度末で国内総生産GDP)の1.5倍の774兆円に達する。先進国で最悪だ。にもかかわらず、財務省原案には、税収増にタガが緩んだとしか思えない歳出が少なくない。
代表的なのは整備新幹線の予算だ。三線区間の新規着工が決まり、予算が増額された。将来の国庫収入を担保に借金し、財源の一部をひねり出す強引な手法を使ってのことだ。費用対効果に問題がある巨大な公共事業に今、予算をつける必要があったのか、大いに疑問だ。
社会保障費は、初めて20兆円の大台に乗った。前年度比5,800億円余りの増加で済んだのは、三位一体改革で、国民健康保険の国庫負担を削減し、地方に税源移譲したためだ。1兆円を超えると見込まれた自然増に切り込んで、抑え込んだわけではない。 高齢化の進展で、社会保障費は今後も高い伸びが予想される。その一方で生活保護費や医療費に、多くの無駄が潜んでいる。こうした無駄をえぐりながら、制度の抜本改正を急ぎ、予算増にしっかりとした歯止めをかけることが急務だ。


予算編成――不安は膨らむばかりだ(朝日社説)
歳出の4分の1を占める社会保障関係費は、05年度予算で史上初の20兆円台に乗ってしまった。事務経費の削り込みも、焼け石に水である。 高齢者が増える限り、それに合わせて年金支出が膨らむ構造に手がついていないからだ。このままでいくと、14年度には33兆円に達するという恐ろしい試算もある。
そして、公共事業だ。危うい需要予測など将来性への疑問が膨らむ一方なのに、整備新幹線にしても関西空港の2期事業にしても、地元の大合唱に押されて予算が付けられた。


来年度予算 増税への理解得られない(産経社説)
一般歳出では聖域を設けないとして、公共事業費や政府開発援助などのほか防衛費なども削減したが、結局は社会保障費の増大に食われる形となってしまった。しかも、財政健全化に逆行する措置も目立った。
整備新幹線では北海道など新三区間の着工に道を開き、関西国際空港の第二滑走路も認めた。これが財政規律を判断する上で象徴的問題であることを考えれば、“蟻(あり)の一穴”にならないかどうか憂慮すべき事態だ。


05年度予算原案 これでは増税の議論できぬ(毎日社説)
予算編成方針では、歳出の重点化や省庁横断の効率的歳出などが挙げられているが、その成果はまだまだだ。公共事業費は3.6%減となっているが、これは更なる切り詰めが求められる。なかでも、関西国際空港2期工事や整備新幹線関係の予算が重点化だとすれば、理念はどこに行ったと言わざるを得ない。
と、まぁ整備新幹線に予算をつけたがために日本の財政が破綻すると言わんばかりの勢い。

本来真っ先に手をつけるべきは、歳出の中で最も金額が大きく、さらに増加している社会保障関連費のはずだが、社会保障関連費の見直しを訴えているのは読売と朝日のみで、日経と毎日は社会保障費の増大に社説の中で触れてもいない。確かに社会保障費をすぐに削減することは難しいだろうが、歳出削減の効果を上げるためには避けては通れない部分であり、全く触れもしないというのはバランス感覚を疑ってしまう。

整備新幹線については、建設費の大きさだけでなく採算が取れるか分からないことが大きな要因のようだが、既存の新幹線で採算割れしている路線は無かったと記憶しているのだが…。採算割れがなければ、いつかは建設費も償還できるわけで何か問題があるのだろうか?

整備新幹線への予算措置に反対する各紙は、そのあたりをもう少し定量的に突っ込んだ分析を見せて欲しい。


[関連投稿]
家計の預貯金が国債にシフト?(2005年1月5日)