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お気楽金融雇われ人の見聞録

対北朝鮮強硬策実施までに考えるべきこと

第三回実務者協議で北朝鮮から提出された横田めぐみさんのものとされたお骨、松木薫さんの可能性があるとされたお骨は両方ともニセモノだという鑑定結果が出た。

今回の結果を受け、家族会はじめマスメディアも、経済制裁を検討すべき、踏み切るべきという意見が今まで以上に高まっている。

家族会の方が、北朝鮮への経済制裁を声高に訴えるのは良くわかるが、マスメディアまでがこぞって強硬策を訴えるというのはちょっと理解できない。もう少し硬軟の論調が混在してもいいと思うのだが。

個人的には、日本単独の経済制裁は効果が薄いという認識は変わっていない。

経済制裁するなら6カ国協議の枠組みか国連安保理の枠組みを使うべきである。その実現が難しいのであれば、これまでどおり経済制裁をちらつかせながらの「対話と圧力」でやっていくしかないだろう。

「対話」のための「圧力」として経済制裁をちらつかせるという使い方は有効だと思うが、本当に経済制裁に踏み切るためには、もう少し考えておくべきことがあると思う。

経済制裁すべしという強硬派の方に聞いてみたいのは、経済制裁を実施した後の展開をどう考えているのかということ。

たとえば、中国・韓国などの迂回ルートを使ってモノやカネが流れ込み、北朝鮮があまり経済制裁からダメージを受けなかった場合、その次にどんな手を打つつもりでいるのか。

経済制裁」というと、日本が太平洋戦争に踏み切らざるを得なかった戦前のABCDラインを想起して、北朝鮮が大変なダメージを受け、拉致被害者を返してくると考えているのであれば、少し見方が甘いと思う。

フセイン政権時のイラクは、国連による経済制裁を受けていたが、それでアメリカに屈服することもなければ、宣戦布告してくることもなかった。カストロ政権のキューバも同様だ。

つまるところ経済制裁は、それだけでは相手の国を屈服させる切り札にはなり得ない。日本が、ABCDラインによる封鎖で大ダメージを受けたのは、海上封鎖により物資が日本に届かなくなったからである。北朝鮮に対する経済制裁で同じような効果を期待するのであれば、海上封鎖はもちろん中朝国境を封鎖する必要があるはずだが、誰がここを封鎖するのか(中国には北朝鮮を崩壊させるつもりは全くないのに)。

また、北朝鮮は、「経済制裁は宣戦布告と見なす」と明言しているのだから、経済制裁を発動した時点から交渉窓口は失われ、行方不明の拉致被害者を交渉で取り戻す余地はなくなってしまう。また、経済制裁のお返しとばかりミサイルが飛んでくることまで覚悟しておかなければならないわけだが、どう対処するつもりなのか。

更に、首尾よく北朝鮮が屈服するなり、崩壊するなりした後の事後処理をどうするのか。

北朝鮮という国家そのものをどうするか、復興支援をどうするか、発生するであろう難民対策をどうするか、そのあたりの処方箋を描いた上でなければ、実施後のリスクが大きすぎて、経済制裁には踏み切れないはずだ。

現状は、政府がぐらつかない限りは「『対話』のための『圧力』として経済制裁をちらつかせる」という形になっているので、あまり心配しているわけではないが。

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