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お気楽金融雇われ人の見聞録

平成23年 論文式試験(刑事系第1問[刑法])の構成

司法試験の振返りシリーズ。今日は刑法。

他の科目との比較では、相対的に書くべきことが書けた気はするけど、評価される書き方になっているかどうかはまるで自信なし。 第一 甲の罪責
1. 乙に対する傷害罪(204条)
(1)甲が乙の腹部を一回殴打、顔面を右膝で3回蹴ることにより、乙の歯を破折し、顔面打撲のケガを負わせた行為は、傷害罪(204条)の構成要件を充たす。
(2)本件は、甲と乙が繁華街で肩がぶつかり、言い合いとなった最中の行為であるが、甲が乙を殴ったり蹴ったりした時点では、乙から甲に対する急迫不正に侵害は何ら発生していなかったので、正当防衛(36条1項)は成立しない。
(3)よって乙に対する傷害罪(204条)が成立する。

2. 丙に対する傷害罪(204条)
(1)甲が丙の腹部や大腿部を2回蹴り、かつ頭部を締め上げた一連の行為によって腹部打撲のケガを負わせた行為は傷害罪(204条)の構成要件を充たす。
(2)甲の行為は丙に胸部を強く押されたことに対する反撃行為 → そもそも丙の行為は甲→乙の攻撃に対する反撃
よって甲が自ら招いた侵害行為なので、正当防衛は成立しない
(3)丙に対する傷害罪成立

3.乙に対する殺人未遂罪(199条、203条)
(1)甲が運転する自己の車から乙を振り落として頭蓋骨折、脳挫傷等のケガを負わせた行為→殺人未遂か傷害の行為に該当
(2)アスファルトの路面に車から振り落とす=死の危険の発生する蓋然性の高い行為=殺人の実行行為性あり
また、車高が高い、時速50km、左右に急旋回
「路面に頭など打ち付けるだろうが、乙を振り落としてしまおう」=乙の死の結果に対する認識・認容あり=殺意あり
(3)乙はナイフを車内に落とした+窓にしがみついている=甲に対する侵害なし=急迫性なし→正当防衛成立せず
(4)乙に対する殺人未遂罪成立

第二 乙の罪責
1. 甲に対する傷害罪
(1)甲の背後から腰背部を2回蹴って腰背部打撲のケガを負わせた行為は傷害罪の構成要件を充たす
(2)乙の行為は丙を助けるための防衛行為だが、甲に対する仕返しの意思もある→仕返しの意思があるだけでは正当防衛の成立は阻害されない
(3)正当防衛成立

2. 甲に対する傷害罪
(1)甲の左手をナイフで切りつけて切り傷を負わせた行為は傷害罪の構成要件を充たす
・使ったのは刃渡り10センチのナイフ
・人体の枢要部でない左手を目がけて切りつけ
殺人罪の実行行為性なし=傷害罪の実行行為
(2)本件は、甲の一連の暴行に対する正当防衛とも考えられるが、乙丙から逃げようと走り出した甲を追いかけて切りつけている=甲が逃げ出した時点で急迫不正の状況終了
(3)甲に対する傷害罪(204条)成立

3. 甲に対する暴行罪(208条)
(1)甲の乗った車の運転席の窓から甲の顔を目がけてナイフを突き出した行為は暴行罪(208条)にあたる。

第三 丙の罪責
1. 甲に対する暴行罪
(1)丙が甲の胸付近を両手で強く押した行為は暴行罪の構成要件を充たす。
(2)本件は、甲が乙を殴り、膝で蹴っていたことに対する防衛行為であり、正当防衛(36条1項)が成立する。
(3)よって犯罪は成立しない。

2. 甲に対する傷害罪
(1)丙が甲の背後から頭部を2回殴って、頭部打撲のケガを負わせた行為は傷害罪の構成要件を充たす。
(2)本件は、甲による急迫不正の侵害が続いていたとも思えるが、甲の注意は丙から乙に向かっていた=丙に対する侵害は終了
にもかかわらず、甲の背部から頭部を2回殴っている → 正当防衛にあたらず
(3)甲に対する傷害罪成立

3. 乙に対する暴行罪
(1)丙が乙の両肩を強く後方に引っ張った行為は暴行罪の構成要件を充たす。
(2)本件は、乙が甲にナイフで切りかかることを止めようとした行為 → 犯罪は成立せず

第四 罪数
1. 甲には、乙に対する傷害罪、殺人未遂罪、丙に対する傷害罪が成立し、併合罪となる
2. 乙には、甲に対する傷害罪、暴行罪が成立し、併合罪となる
3. 丙には、甲に対する傷害罪のみが成立