聞いた、見た、読んだ。

お気楽金融雇われ人の見聞録

安全性と利便性のトレードオフ

なださんは分かっておっしゃっておられるでしょうから野暮は承知の上で。

変だぞ 銀行の安全対策精神科医・作家のなだいなださん)
--特にセキュリティ(安全)対策に疑問があるそうですね。
「勧められて、手のひらの生体認証を登録しましたよ。よく考えてみると、病気になったらどうするか。信頼しているお手伝いさんでも預金は下ろせません。ストレッチャー(車輪つきベッド)に乗せられて銀行に行けというのですかね。」
「暗証番号も生年月日を使っていたから直せということになった。西暦の生年も、電話番号もだめ。年寄りにアトランダムな数字を覚えろといっても無理です。分からなくなるから手帳に書き込むが、あれを盗まれたら危険きわまりない。」(日経新聞「インタビュー領空侵犯」 2006年4月17日)

今のところ生体認証自体がセキュリティを重視する顧客向けのサービスという位置付けですから、いざという時に不便であるというご指摘はその通りです。実際、生体認証のカードは取引している銀行の支店か店外ATMでないとまず使えませんからね。他の銀行やコンビニATMでは使えませんから、なださんが指摘する代理人による取引だけでなく、本人が使う分にも利便性改善の余地は大きいサービスではあります。

でも、金庫だって厳重な金庫は開けるのも閉めるのも手間がかかるように、利便性と安全性はトレードオフの関係になることが多いわけですから、生体認証のキャッシュカードもそういうものだと思っていただけると助かるのですけれども。個人的には巣鴨信金が導入した「がんじがらめの安心口座『盗人御用』」(キャッシュカードは全廃、窓口で通帳を使って都度本人確認のうえ預金取引を行うサービス)がツボなのですが、これとて預金の引き出しができるのは本人限定で、口座を作った店に限られているという点では、利便性がある程度犠牲になっているわけです。

このあたりの安全性と利便性のトレードオフに対するニーズは顧客によって異なるのが当然でしょうから、銀行としては「安全だから」という理由だけで生体認証キャッシュカードを売りまくるのではなく、安全性と利便性のバランスに応じて何種類かの認証を用意しておいて顧客の都合に合わせて使っていただくのがベターなんでしょう。