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お気楽金融雇われ人の見聞録

ノン・リコースローンでは欠陥住宅を排除できない

金融機関もリスク負う住宅ローンに=中川氏
自民党中川秀直政調会長は5日夜、千葉県市原市内での講演で、耐震強度偽装事件に関連し、「米国の住宅ローンのほとんどは、担保価値以上の債務返済義務がない。担保割れになった住宅ローンの債務者は、家を手放しさえすれば、それ以上の債務を請求されない」と述べ、住宅ローン制度の見直しを求めた。
中川氏はこの制度の利点として、「欠陥住宅のリスクは居住者だけでなく金融機関も負い、金融機関は融資審査のときに耐久性や耐震性、高性能といった住宅の質のチェックを相当厳しくするだろう。それが欠陥住宅を市場から駆逐することにもなる」と強調した。(時事通信 2006年2月6日)

一般的な話として考えれば、住宅ローン利用者保護の観点からは、住宅ローンのノン・リコース化自体は望ましい方向だと思います。ただ、その前提としてせめて住宅地については地価変動幅がGDPの成長率の範囲内に収まる程度の土地政策は実行してもらいたいところです。

なぜかといえば、住宅ローンをノン・リコース化することで、住宅ローン利用者は地価下落による担保われリスクから開放されますが、銀行は地価変動リスクを丸抱えできませんので、理論的にはその一部を金利という形で薄く広く住宅ローン利用者にまぶす形になるからです。地価変動が緩やか(地価変動率が小さい)であればリスク見合いの金利は少なくなりますが、地価変動が激しければリスク見合いの金利は高くなってしまいます。もちろん地価変動分がまるまる金利に反映されるわけではなく、どこまで利用者に転嫁するかは各銀行の経営判断になりますので、競争上の理由からほとんど転嫁しないケースはありえます(最近の住宅ローン低金利キャンペーン合戦がいい例です)。

こうしてみると、住宅ローンをノン・リコース化しようという中川政調会長のご提言の趣旨には賛同しますが、根っこの問題は地価変動のリスクを誰がどのような形で負担するかという問題に過ぎず、地価変動が緩やかであればリコース型とノン・リコース型のどちらを選ぶかというのは技術的な問題に過ぎないことが分かります。

ただ、これが耐震強度偽装の問題とどう関係してくるかはよく分かりません(消費者が欠陥品をつかまされることと地価変動などによる担保価値の低下を同一視するのはまずいでしょう)。それに欠陥住宅かどうか検査するのは銀行員じゃなく建築の専門家でしょうから、関係者の構図は今とあまり変わらないはずで、銀行の審査で欠陥住宅を排除することは限界があると思います。欠陥住宅の問題については、まずは住宅がPL法の対象外であるという大穴を埋めた上で、欠陥住宅を作った業者の賠償責任を問うことを明確にすることが先でしょう。

欠陥マンション問題はこう考えてます
今後同様の事件が起こらないためにどうするか?です。調べていて唖然としたのはマンションや家屋といった建物は土地と同じく「不動産」というくくりでPL法の対象外になっているんですね。土地ですら手抜き造成などが原因で不同沈下の問題が顕在化するケースがあるのに、建物が製造物でないなどということはありえないでしょう。構造検査の仕組みを見直すとかの前に、まずはここを見直して、欠陥建築物を作った関係者が賠償責任を負うことを明確にすべきだと思います。その上で、施工者、建設者、検査機関の責任をどう分担させるかという議論をするべきじゃないかと思います。