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お気楽金融雇われ人の見聞録

農林公庫を農林中金に統合しないのはなぜ?

中川農水相、農林公庫の廃止を表明 他法人と統合も示唆
中川農林水産相は15日朝の政府・与党政策金融改革協議会で、農林漁業金融公庫をいったん廃止し、新たに農家や関係企業を資金面で支援する独立行政法人を設立する考えを表明した。この法人を農水省所管の既存の独立行政法人と統合させる可能性も示唆した。
農水相が、所管する政府系金融機関の廃止を表明したのは初めて。特殊法人とは異なり、業務内容が厳しく規制されている独立行政法人への組織変更を自ら打ち出し、農林公庫が持つ長期融資などの機能を温存する狙いと見られる。(asahi.com 2005年11月16日)

政府系金融機関の統廃合について、中川農林水産相が所管する農林漁業金融公庫の廃止方針を打ち出しました。特殊法人としての農林公庫を一旦廃止して、独立行政法人へ衣替えすることを考えているようですが、門外漢的には単純に農林中金と統合したらいいのにと思います。

農林公庫は農林漁業金融公庫法、農林中金農林中央金庫法という法律に基づいて設置されていますが、農林公庫はもともと農林中金の補完的な役割を担うことを目的に設置されているので、廃止・統合するのであれば農林中金に統合(払い下げ?)するのが自然ではないでしょうか。農林中金の方が断然大きいですし、農林中金自身が統合に名乗り出てもよさそうな気がします。

農林漁業金融公庫法
第一条  農林漁業金融公庫は、農林漁業者に対し、農林漁業の生産力の維持増進に必要な長期かつ低利の資金で、農林中央金庫その他一般の金融機関が融通することを困難とするものを融通することを目的とする。
2  農林漁業金融公庫は、前項に規定するもののほか、食品の製造、加工又は流通の事業を営む者に対し、食料の安定供給の確保に必要な長期かつ低利の資金で、一般の金融機関が融通することを困難とするものを融通することを目的とする。
農林中央金庫法
第一条  農林中央金庫は、農業協同組合森林組合、漁業協同組合その他の農林水産業者の協同組織を基盤とする金融機関としてこれらの協同組織のために金融の円滑を図ることにより、農林水産業の発展に寄与し、もって国民経済の発展に資することを目的とする。

そういう話が全く出ないまま農林公庫の廃止方針が出てきたのはちょっと不思議な気がしますが、おそらく「不良債権1兆2,000億円?」で書いたように、農林公庫が抱える森林整備法人向け債権が実質不良債権化しているということが大きな要因だと思います。

森林整備法人向け債権は、返済が滞り不良債権化すると地方自治体が肩代わりすることになっているので、見かけ上不良債権になっていません。しかし、リンク先で引用した記事の通り、地方自治体は悲鳴を上げているようなので、実態的には自治体にも肩代わり能力がない、すなわち自治体ごと不良債権化している可能性が高いということです。

森林法人向け債権が実質的に不良債権化しているのであれば、貸倒引当金を計上するのがルールです。ところがさらに悪いことに、農林公庫は債務超過ではありませんが繰越欠損金を計上しており、1兆2,000億円の実質不良債権に貸倒引当金を計上すると、農林公庫自身が債務超過に転落する可能性は多分にあると思います(16年度ディスクロージャー誌)。

そんな状況なので農林中金も農林公庫の統合に手を挙げないし、あうんの呼吸で行政は公庫自身を廃止する方針を打ち出して、農林公庫と農林中金の統合話が出ないよう手を打った。

今回の話の背景はこんなところではないかと思います。