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アムネスティの年次報告書の新聞報道について

ちょっと日本の新聞の取り上げ方がミスリーディングかなと思ったニュース。
国際人権団体アムネスティ・インターナショナル(本部・ロンドン)は25日、04年の世界各地の人権状況に関する年次報告書を発表した。米国を名指しし、イラクアフガニスタンなどの収容施設で拷問など深刻な人権侵害を行ったと厳しく非難。9・11テロ以降、国際的な人権擁護の基準が揺らいだと警告した。
報告書は、ブッシュ米政権を「世界の人権擁護のチャンピオンとはほど遠い」と記述するなど、対米批判が目立った。イラクでは武装勢力側による一般市民への攻撃と共に、米軍兵士によるバグダッド郊外のアブグレイブ刑務所での拷問事件を取り上げ、米国の責任を追及。アフガニスタンについても、「無法で不安定な状態を助長する悪循環に陥った」と指摘している。 (asahi.com 2005年5月26日)
上はアサヒ・コムの記事からの引用(参照)だが、日経新聞参照)も読売新聞(参照 )も似たような取り上げ方。
ふーん、アメリはえらく非難されているんだな、でも人権問題といえば、スーダンダルフールとかそれこそ北朝鮮とかあったよなぁ、などと思いつつアムネスティ・インターナショナル・ジャパンのニュースリリース(和訳)を見てみた(参照)。

長いので全文引用はしないが、書き出しはこう。
アムネスティ・インターナショナルは本日、世界各地の人権に関する年次報告書を発表するにあたり、各国政府は人権に基づいた世界秩序を構築するという約束を反故にし、危険に満ちた新たな政策を追求していると述べた。
アムネスティ年次報告書2005の発表に際し、アイリーン・カーン国際事務総長は、各国政府は信念に基づいた指導力を発揮していず、これについて説明を尽くさなくてはならない、と述べた。
「政府は人権に関する約束を反故にしている。恐怖と治安不安にまみれた政策を遂行していくために、自由と正義を語った新たな政策が構築されつつある。これは、拷問を再定義し汚れのないものとするための皮肉な努力でもある」と、アイリーン・カーンは述べた。
これは、どう見てもアムネスティ・インターナショナルが非難の対象としているのは各国政府(原文では" Governments")なんじゃないの?
だからこの後、具体例としてスーダン、ハイチ、アフガニスタンイラク、ロシア、ジンバブエの状況が挙げられているわけで。アメリカの人権問題に対する取り組みも槍玉 に挙げられてはいるが、ずっと後の方。それもニュアンスとしては「アメリカは言ってることとやってることが違うぞ。世界一影響力の強い国なんだからもっとしっかりしてよね。ほかの国が真似しちゃうでしょ」という感じで、言ってみれば親が一番上の子供を叱っているイメージに近いように思う。

ニュースのどこに力点を置いてレポートするかは新聞社の自由なのは当然だが、3社が3社とも同じ部分を強調し(それも朝日新聞と読売新聞が)、かつどうもピント外れだという印象なのはどうにも気持ち悪い。もう少し切り取り方ってものがあってもいいだろうに、いわゆる「特落ち」回避ってやつですかね。

私としてはアムネスティ・インターナショナルが日本をどう評価しているか気になったのでアムネスティのサイトを回ってみたら、年次報告書で日本の状況は次のようにサマリーされていた(参照)。
Two men were executed in 2004 in secret by hanging. At least 61 prisoners remained on death row. Refugee recognition procedures failed to meet international standards. The issue of reparations for forced sexual slavery during World War II remained unresolved.
(仮訳)
2004年には、2人の男性が、絞首刑を非公開で執行された。少なくとも61人の囚人が死刑囚として残っている。日本の難民の認定手続は、国際標準に合致していない。第二次世界大戦中の従軍慰安婦に対する賠償問題は未解決のままであった。
この後、それぞれの項目についての説明が続く。アムネスティ・インターナショナルの指摘がすべて正しいかどうかといえば、個人的に反論したいと思う部分はあるが、今は勉強不足なのでそれは稿を改めて。新聞だって色々言いたいことはあるんじゃないの?
これから社説で出てくるんだろうか。決して軽くないテーマだと思うので、それぞれの新聞がどういう意見を持っているか読んでみたいところ。ぜひ「啓蒙」していただきたい。

ちなみに、韓国の東亜日報も同じ年次報告書を取り上げているが、内容はアメリカのことではなく北朝鮮の状況(参照)。今回、アムネスティのサイトまで見に行こうと思ったのも、東亜日報の記事を読んだから。韓国のマスメディアは、お世辞にもすばらしいと言えるものではないのだけど、この件に関しては、明らかに東亜日報の方が読者の関心を喚起していると思う。